寒い季節が近づくと、スーパーや街角でよく見かける【石焼き芋】の存在。焼きたての香ばしい皮が目を引き、中のホクホクした食感と絶妙な甘さが相まって、なんとも魅力的な一品ですよね。冬になると軽トラックから流れる「い〜しや〜きいも〜おいも♪」という音色に引き寄せられ、ついついその甘い香りに誘われて購入してしまう方が多いのではないでしょうか。今回は、そんな美味しい石焼き芋について、使用される石の種類や、その美味しさの理由などを詳しく掘り下げてご紹介します。
石焼き芋の由来は?
石焼き芋の歴史は、1719年に来日した朝鮮通信使の記録にさかのぼります。記録の中には、京都の日岡で焼き芋の露天商が営業していたことが記されています。当初は蒸し芋が主流でしたが、明治時代に入ると鉄製の平釜を使って焼くスタイルが始まり、これが現在の石焼き芋の起源とされています。
焼き芋自体は、中国東北部が発祥とされ、そこで親しまれていたのは【壺焼き芋】という形でした。日本では、終戦を迎えた昭和20年から、さつまいもの統制解除が昭和25年まで遅れてしまい、戦争の影響でかまど焼きや壺焼きの店はほとんど姿を消してしまいました。そのような背景の中で登場したのが、現在の【石焼き芋】です。鉄板製の箱に小石を入れ、さつまいもを焼くための道具をリヤカーで運び、町中を売り歩くスタイルは、今でも容易に想像できるでしょう。時代が進むにつれて、現在では軽トラックやスーパーで簡単に手に入るようになりました。
日本国内で石焼き芋がブームとなったのは、江戸時代後期のことです。砂糖が非常に貴重だった当時、甘くて手頃な価格の焼き芋は、子供から大人、高齢者まで幅広い層に人気を博しました。その繁盛ぶりは、【歌川国貞(三世豊国】の浮世絵にも描かれています。明治維新以降は、東京の人口が急増し、安価な焼き芋の需要が高まり、そのニーズに応える形で多くの焼き芋専門店がオープンしました。
なぜ石で焼くの?どんな石が良いのか?
日本で焼き芋が人気を集めた背景には、実際に【石焼き芋】に使用される石が大きく関わっています。焼き芋に使われる石は、鉱物の【水晶石】であり、この水晶石を使うことで、さつまいもの糖度が増加します。石のサイズは直径1〜2cmほどで、親指ほどの大きさの石とそれより小さい石を組み合わせて使うことが推奨されています。
石焼き芋を焼く際には、石の温度も非常に重要な要素です。焼き芋が甘くなる理由は、さつまいもに含まれるβ-アミラーゼという消化酵素が加熱によって糊化したでんぷんに作用し、麦芽糖という甘み成分を生成するためです。この酵素は約60度前後で活発に働き、70度を超えるとその働きが鈍くなります。
したがって、60度から70度の温度帯を長時間維持することが、さつまいもの甘さを最大限に引き出すための秘訣です。低温でじっくりと加熱することにより、甘みが際立った美味しい石焼き芋が完成します。また、加熱された小石から放射される遠赤外線効果によって、表面が一気に加熱される一方で、中の水分は低温で保たれ、内部までじっくりと火が通ることで、さらに甘みが増すのです。このように石を使用することには、多くのメリットが備わっています。
焚き火でアルミホイルに包んで焼く方法も良いですが、じっくりと火を通すことで、より甘さと美味しさが引き立つ石焼き芋の魅力に強く惹かれるのは、自然なことかもしれません。
石焼き芋に適したさつまいもは?
さて、石焼き芋に適したさつまいもはどの品種が良いのでしょうか。まずは、さつまいもそのものの特徴についてご紹介します。
【紅はるか】は濃厚な甘さとねっとりとした食感が特徴で、まるでスイートポテトのような強い甘味を持っています。
【シルクスイート】もまた濃厚な甘味を持ち、水分が多く、滑らかでしっとりとした口当たりが楽しめます。
【安納芋】は、濃厚な甘味とクリーミーな食感が特徴で、非常に人気のある品種です。
【クイックスイート】も甘さが際立ち、蜜がたっぷりでねっとりとした食感が楽しめます。
【ひめあやか】は小ぶりで、濃厚な甘味と滑らかな口当たりが大きな魅力です。
【鳴門金時】は昔ながらのホクホク系で、栗のような甘味と食感が特徴的です。
【紅あずま】も昔から親しまれているホクホク系で、繊維質が少なく、滑らかな食感が魅力です。
【アヤコマチ】はカラフルで甘みが強く、オレンジ色の果肉が特徴で、ねっとりとした舌触りが楽しめます。
【アヤムラサキ】は濃い紫色の果肉を持ち、甘さはやや控えめですが、カラフルな見た目が楽しめます。
【安納こがね】もカラフルで、濃いオレンジ色の果肉を持ち、濃厚な甘さが特徴です。
これらの品種はそれぞれ独自の個性がありますが、特に代表的な【安納芋】【紅はるか】【紅あずま】の3つについて比較してみましょう。
【安納芋】はそのねっとりとした甘さが特徴で、少し前まではあまり見かけなかった品種で、焼き芋としては高価で販売されていました。
【紅はるか】は、その美味しさから「安納芋を超えた」と言われることもあり、実際その名前は「はるかに美味しい」という意味に由来しています。
【紅あずま】は非常に馴染み深いさつまいもで、スーパーで目にすることが多い品種ではないでしょうか。昔から「さつまいも」と言えば、紅あずまを指すことが多かったのです。
これらの3つを比較すると、特に【紅はるか】がおすすめです。焼き上がりは紅あずまとほとんど変わりませんが、甘味のバランスが良く、水分が多いためしっとりとした仕上がりになります。もちろん、安納芋も安定した美味しさを誇りますが、ねっとりしすぎるため、石焼き芋のジャンルでは紅はるかが優位に立つことでしょう。また、紅あずまも馴染みがあり、それなりに美味しいですが、ややぱさついた感じがあり、水分が足りない印象があります。焼き芋にするなら、ぜひ【紅はるか】をお試しください。
まとめ
・石焼き芋は江戸時代後期から人気が高まり続けている。
・石焼き芋を焼くために使用される石は水晶石で、その大きさはさまざま。
・おすすめの石焼き芋品種は【紅はるか】。
さつまいもは栄養価が高く、食物繊維が豊富ですが、石焼きにすることでさらに甘味が増し、その美味しさが際立ちます。ただし、カロリーが高く太りやすい食べ物でもあるため、美味しいからといって食べ過ぎには注意が必要です。購入する際は、食べきれる量を考慮し、美味しく楽しめる範囲でお求めになることをお勧めします。